「ところで、ですが」

頭をあげた奈々恵が思い出したように言うと、僕を見つめた。

「聖子さん――あなたのお母様について、よからぬ話をお聞きしたのですが」

そう言った奈々恵に、
「えっ?」

僕は思わず聞き返した。

よからぬ話って…それは、一体どう言う意味なのだろうか?

「母が、何か…?」

亡くなったのは、32年前の5歳の時である。

奈々恵は一体、何を聞いたと言うのだろうか?

そう思っていたら、
「あなたのお母様は心臓発作で亡くなったのではなくて…」

奈々恵が言った。