だけど、触れた指先は一瞬で離される。 「紗織、来い」 呼び名を変えた彼の声は、甘くて多分女なら逆らえる人なんていないだろう絶対口調で。 高見ちゃんは、それを拒まなかった。 「…山都さん、安心してもらうつもりはないですよ」 関谷君は俺に真っ直ぐ視線を投げかけて、抑えた低い声なのに高圧的な不機嫌さを伴う言葉を吐く。 引き連れるように、扉に向かう後ろ姿に、もう掛ける言葉はなかった。