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その日は天気がよかった。

「時雨少佐」

病室を訪れた奈々は、時雨に声をかける。

「少しお散歩しませんか?日差しが気持ちいいですよ?」

「ああ…いいな。それでは頼もうか」

時雨の座る車椅子を押して、奈々は横須賀基地内の軍港近くへと向かう。

穏やかに波打つ海。

ウミネコが呑気に鳴き声を上げ、潮風が奈々のツインテールをそよがせた。

「新兵の頃はな」

時雨が気持ちよさそうに目を細めながら言う。

「訓練の合間を縫って、隊の仲間と共にここらで泳いだりしたものだ。勿論水着など持ち合わせていなかったからな。迷彩服のまま、海に飛び込んでいた」

「えっ、時雨少佐がですか?」

目を丸くする奈々。

軍規に厳しく、規律を乱す行為は何よりも嫌いそうな時雨でも、新兵の頃にはそんな事があったのだ。

「ああ、こっぴどく叱られたぞ?当時の教官に腫れるほどぶたれたものだ」