「奥さんは最後にこんな風におっしゃいました…」

『康弘さん、私はもうダメかもしれないけれど、残された美幸や由美の事を頼みますね。

貴方と出会えて私は本当に幸せでした。

短い時間だったけれどありがとう。

私の分まで精一杯生きて幸せになってね。

そして、天国でも一緒になりましょうね…』

「奥さんはそう言って息を引き取られました」

医師から告げられた言葉を聞き、康弘は愕然と膝を落とし床に額を擦りつけながら泣いた。

美恵が最後に語った言葉は、前妻の真由美の言葉とほとんど同じだったのである。

康弘はその時初めて自分自身の運命の恐ろしさを実感した。

そして、産婦人科の医師から告げられた美恵の言葉をもう一度よく噛み締めた。

『私の分まで幸せになって…』

それは、微かではあったが康弘に生きる勇気を与えてくれた。

そして、何より美恵の分身でもある美幸という新しい命を、美恵が残してくれた事に生きる希望を見出だすのであった。