ダークエンジェル

「やっぱりこの近くのホテルだ。
送っていこうや。

お前、どうせ暇なんだろ。
散歩中だったんだから。」



送っては行きたいがひとりでは… と思ったのか、

水嶋はリュウを見てそんな言葉を出した。

それまでは、早く帰れ、と言いながら

リュウを電車に乗せようとしていた水嶋、

すっかり頭から消えている。



「良いですよ。」



勿論リュウに依存はない。



2人はそのアメリカ人の両側から肩を貸し、

支えるようにホテルの部屋まで運んだ。

彼に比べれば頭ひとつは低い2人だが、
それでも難なく運べた。

しかし、部屋に入り、
ベッドに寝かそうと、

水嶋がスーツの上着を脱がした時、

ワイシャツが血でかなり汚れているのに気づいた。



「わぁ、リュウ、大変だ。
この人、物取りに遭ったんだ。

ナイフで刺され、
とりあえず出血を抑えようとしていて意識を失ったんだ。

警察だ、警察に知らせなくては… 」



カイルの血で汚れたワイシャツを見た水嶋、
驚いて騒いでいる。



「だめ、警察は必要ない。
私は何も盗られてはいない。

私が相手を追い払った。
だけど少し傷を負った。
もう血は止まった。

このまま寝ていれば大丈夫。
送ってくれて有難う。」



てっきり気を失っていると思っていた水嶋、

その彼の言葉でまた、仰天している。

気を失っている、と思ったが意識はあったらしい。

リュウは、まじまじと彼の顔を見ている。



「じゃあ、僕、薬局で何か買ってくるよ。

お金、ある。」



動揺している水嶋に比べ、
リュウは落ち着いて相手の言葉に合わせている。



「上着のポケット。すまない。」


「先輩、僕が出ている間に、
その人の服を脱がせて、
パジャマに着替えさせてよ。

ひとりで出来る。」



と、言われた水嶋、
急にしゃきっとした気分が甦ってきた。


するべきことはきちんとして、帰りを待った。

もう、時間の事など全く頭になかった。