「おじさんが元気になって良かったです。
リュウ、子供っぽいところがあるから…
だけど、すごく頑張りましたよ。
あ、あのメダル、
リュウ、テニスが上手いんですよ。
これ、うちのお袋が撮っておいたビデオです。
全国大会と都大会、それといなずま杯。
あと…秋になれば国体が始まり、
僕とリュウでダブルスに出ます。
まあ、敵は手ごわいですが… 頑張ります。
なっ、リュウ。」
「国体と言えば、
県をあげてのスポーツ大会。
高校生が出られるのかね。」
「ええ、少年の部、と言うのがあって、
16歳からO・Kなんです。
20歳までの大学生や社会人も出るので気は許せませんが、
何故か、リュウと組むと不思議と力がわくようで…
楽しみです。
初めは東京の代表に選ばれなければなりませんが…
選ばれたら、今年は福島県で行われるので、
見に来てください。」
と、水嶋は、
その代表に選ばれる事が肝心と言うのに、
先の長い話を、
さも簡単に決まるような口調で信秀に伝えている。
「ああ、そうなったら応援に行かせてもらうよ。」
「父さん、弁護士さんから聞いたでしょ。
あの人たちの遺骨、どうするの。」
そのことは水嶋も知っている話だ。
リュウは父の口から聞きたいことがたくさんあったが、
とにかく水嶋がいる今、差障りのない、
そして大切な話を口にした。
「ああ、そうだなあ。」
「そうだった。
おじさんは義母さんたちが戸籍がないってこと、知っていたのですか。
警察が聞きに来て…
リュウは全く初耳で。
弁護士さんも戸惑った顔をしていましたよ。」
「あの人たち、犯罪者か何かなの。
子供まで使って… 」
水嶋の言葉にはまだ美由紀に対する親しみの心も感じるが、
リュウの言葉には冷たいものが含まれている。
そう、リュウは4年間、同じ屋根の下に暮らしていたが、
一度も好きになった事はなかった。
そして怪しげな事実を知らされて…
ひょっとしたら逃亡者、と言う仮説まで作っていた。

