「分かった。カイルの好きにしたら良いよ。
僕は… カイルがいてくれてとても力強かった。
これからも…
ずっと僕の兄さん、カイルだよね。」
「ああ… とても良い響きだ。
リュウ、大好きだよ。じゃあ。」
それから1週間後。
おりに触れてリュウがしていた、
手足のマッサージがこうを奏したように、
信秀の回復は目覚しく、
退院の運びとなった。
勿論、毎日、自分でタクシーに乗ってリハビリに通う、
と言う事が前提条件だったが…
高倉父子だけでは暮らせない、と弁護士の素行は、
病室で家政婦をしていた野村さんをそのまま雇った。
「龍彦、いろいろ心配を掛けたな。
お前がいてくれて…
水嶋君にも十分にお礼を言わなくてはならないな。」
意識を取り戻した父は、
毎日病院へ来ていた水嶋の存在に感謝しているようだった。
元々、水嶋の事は美由紀から聞いていたから知ってはいたが、
会ったのは初めてだったのだ。
他人に心を開かないリュウが気に入っているテニス部の先輩、
信秀にとって水嶋は、
リュウが初めて友達と認めた貴重な存在の先輩だった。
そして退院の日、
高倉の家ではささやかな祝いが行われた。
と言っても、客は水嶋だけ。
夏の事だったから、
水嶋の兄が寿司のネタと飯を別々に運び、
みんなの前で寿司を握り、
出来上がるとすぐに帰っていった。
水嶋にしても、兄がその場にいれば気持が堅くなるだろうし、
兄は寿司屋の仕事が待っていた。

