ダークエンジェル


それから数時間後、

やっと父は意思のある眼差しでリュウを見つめている。

長い事、ベッドに寝転んでいた生活だったから、

体は自由には動かせないが、

それでも、リュウが手を握れば、
弱々しいながらも応じている。

言葉はまだ上手く出ないようだ。

言葉を忘れた、とか言うのではなく、

長い事、声を出していなかったから声帯に関する筋肉が衰え、

何かにつけてスムーズにはいかないらしい。

それでもリュウは、父が起きた,ということで、

最高の幸せを感じている。

後は医師や看護師の言うとおりにすれば… 

退院もそう長くはないはずだ。


そして、カイルの事を思い出し… 

リュウは廊下に出て、携帯に連絡を入れた。



「本当か。良かった… 良かった。」



そう言ったきり、しばらくカイルの声が止まっていた。

リュウと同じように案じていてくれたから、

感激が大き過ぎて、
言葉が出なかったのだろう、とリュウは感じている。



「カイル… 」



そう思いながらもリュウはカイルを呼んだ。



「あ、ごめん。
ュウ、私は後ひとつ、どうしても片付けなくてはならない事がある。

それが終われば、私もそっちへ行く。
高倉さんと話がしたい。

それまで、リハビリ、しっかりやって、
早く退院できるように願っているよ。」


「うん。カイル、早く会いたい。
僕、早くカイルの話を聞きたい。」


「ああ、私は… 高倉さんの気持が… 

リュウ、高倉さんには私の事は黙っていてくれ。

私は… 私は直接会って、
自分でいろいろ話したい。」



その言葉は、やはり意味ありげなようにも感じる。