冗談のように始めた2人の行為だったが…
チョコレートを細かく砕いてちょっとだけ入れた途端、
金魚が逆さになって、白い腹を見せて死んでしまった。
「先輩… 死んじゃった。」
「ああ、本当にこれは毒入りチョコレートだ。
あ、とにかく警察に知らせよう。
あ、先生にも伝えておこう。
畜生、こんな事までするか。」
「先輩、誰がしたのか分かっているの。」
リュウは、
これは自分に送られた。
カイルが危惧していたのはこういうことなのか、と推測し、
身震いさえ感じていたが…
どうやら水嶋は他の事で怒っているようだ。
「ああ、考えればすぐ分かる。
犯人は特定できないが…
スポーツマンの仮面をかぶった卑劣な奴だ。
警察が来たら、話すのは俺に任せろ。
お前が入ると話がややこしくなる時があるからな。」
完全に水嶋は、狙われたのは自分たち2人。
目的は明日の試合より都大会、
しいてはその先の全国大会において活躍しそうな自分たち。
今までは名前さえ挙がらなかった無名の高校が急浮上し、
それまでの有名校を脅かす存在になっている曙高校、
その中でもこの2人が名を上げている。
それを妬んでの誰かの仕業に違いない。
幸か不幸か、
その1人のリュウはこうして病院住まい。
雇われている家政婦は全くの赤の他人。
見舞いのように装って品物を置いておけば…
誰でも、席をはずしていた間に来た見舞い客が置いていった、
と考えるだろう。
病院は完全看護とか言うものの、
ことによっては全くの無防備な場所なのだ。
そう、水嶋の中では
この毒チョコレートのストーリーは
完全に出来上がっていた。
駆けつけた警察官やテニス部顧問の川田教諭に、
はっきりとそのことを告げた。

