それを聞きながら男たちはニタニタしている。
普通なら自分たちがこうして取り囲めば、
怯えて言いなりになるものだが…
こいつはかなり世間知らずのようだ、と思っているようだ。
「山崎、僕は誰にも言っていないが、
本当は空手の達人なんだ。
だからすぐにこいつらをやっつてやる。
あいつがラケットを手放したら、
すぐにつかめよ。」
と、リュウはまじめな顔をして、
冗談のようにも受け取れる言葉をだしている。
「ああ… 信じる。」
山崎がどう受け取ったかは分からないが、
言葉は一応リュウに合わせている。
そして男たちは…
ふてぶてしい、あざけるような笑みを浮かべて近寄って来た。
「エイッ。」
リュウは気合のような声を共に左足を高く上げ、
まずラケットを持っていた男の顔面を蹴りつけた。
そう、何の前触れも無く、
いきなり攻撃した。
そしてすかさず右足で、
ふらついた男のラケットを持つ手を狙い…
一瞬、手から離れたラケットは山崎の手に戻った。
勿論、そんな光景を見た他の男たちも黙ってはいない。
一人は、どこに隠していたのか、
ナイフを取り出している。
が、リュウにしてみれば狙う目標があったほうがやり易い。
「リュウ、このラケットを使うか。」
ナイフを見て、
慌てた山崎がそんな声をかけてきた。
自分のために、リュウがナイフでやられては…
と思ったようだ。
「ラケットが泣く。」
「ああ、そうだが… 」
喧嘩などしたことのない山崎が考え付くのは、
ナイフから逃げるにはラケットがあったほうが、
という考えしかない。

