そしてあのラケットは…
勿論小学生の頃からテニススクールに所属していた山崎、
何本もラケットを持っているだろうが、
あの黄色のテープが巻かれたラケットは、
高1になる前の春休みに行われたテニススクール間での選手権で、
優勝した時のもの。
普段、個人的な会話などしたことのないリュウに、
テレながらも誇らしげに話したものだ。
部活しか興味の無いリュウにはどうでも良いような話だったが、
その時の山崎は…
良い友達だった。
そうか、何を壊したと言っているのか分からないが、
二本もラケットを持っていた山崎に、
こいつらは因縁をつけているのだ。
一瞬の内にそう判断したリュウ。
「山崎、どうしたんだ。」
そう言いながらリュウは男たちを睨んでいる。
見かけはひ弱でも…
リュウは運動能力の芽生えている体育会系、
いまでも、休日に父が後妻たちと出かけると言えば、
わざと空手道場へ足を向けているのがリュウだ。
そう、正式な試合に出た事はないが、
空手は小学生からリュウの体にはいりこんでいる。
空手の師・横道には、
テニスをするなら空手だけに精進したらどうだ、
と言われる事がある。
だからそれなりに力はついているのだろう。
「こいつら、僕にわざとぶつかり、
あの携帯ストラップが壊れた、
と因縁をつけてきたんだ。
ぶつかった時にあのラケットを取られた。
あれは… 」
「わかっているさ。
アレは山崎にとっては、すごく大切なものなんだろ。」
「ああ、10万出せば返すと言うんだ。」
「それじゃあ、やっぱり因縁をつけて脅迫してるって事だぞ。」
「分かっている。
通りにはあんなに多くの人がいると言うのにだれもこっちには来ない。
リュウ、来てくれて… だけど… 」
二人はそんな事を話している。

