「これでよし。
僕、今晩ここに泊まって、この人の様子を見る。」



薬屋で聞いたことを実行したリュウ、

いきなりそんな言葉を出している。



「ばか、何を言っているんだ。
こういう時はホテルの人に頼んでおけば良いんだ。

お前は家に帰るんだ。」



その時になって、また時間を思い出した水嶋、

リュウを家に戻そうとしている。



「だけど… もう家に電話した。
明日は休みで練習だけだから、

先輩に着替えとラケットを借りるって、言った。」


「本当か。俺が確認するぞ。」


「良いですよ。そのほうが信憑性がある。」



結局、リュウはここに泊まり、

翌朝、水嶋がリュウの着替えとテニスウエアー、テニスラケットを持ってここに来る、
という事を、

眠っているカイルには断りもせずに話を決めた。

学校はここから地下鉄で一駅、

リュウにすれば家から通うより、
よっぽど近いということだ。




その夜、
カイルの看病としてホテルに残ったリュウだったが、

カイルの状態は思っていたより良いらし。

その規則正しい寝息に… 

リュウはいつの間にか、
部屋に置かれていた大きなソフアーに寝転んで熟睡していた。


そして明け方になって目を開けたリュウ。

すると… そこには自分を見つめるカイルの目が… 

何故か分からないが、
リュウにはとても優しい目に見えた。

初めて会った人なのに… その目は、

昔、まだ幼い頃、

熱を出したりした時、
父が心配して看病し、一緒に寝てくれた時、

自分を見ていた時の、

父の目のように優しい眼差しだった。