「……っ大人しくしなさいよ。もう逃げられないんだから」

 ゆっくりした口調で発したが、男はさらに視線を鋭くさせた。

 威嚇など大の男に通用するハズがない。

 緊張と強ばりが体を強ばらせ、無意識に後ずさりしてしまう。

 それが引鉄(ひきがね)となり、男は口の端をつり上げて容赦なく彼女に近づいてきた。

「!?」

 思わず逃げようと上半身を反転させた。

 そんな彼女の瞳に飛び込んできたのは投げつけられたナイフ──自分でも驚くほど、そのナイフはゆっくり見えた。

「刺さる!?」

 そう思って強く目を閉じた。