「置いてっちゃうよー!」

 今日はハイスクールの合格祝いに、父さんとちょっと高いレストランで食事をするんだ。

 お母さんを13歳の時に亡くしてから、あたしは父さんと2人で暮らしている。金の髪は母さん、緑の目は父さん譲り。

 この国の人たちは人種がバラバラだからあたしの容姿はさして珍しくない。皇族の人は黒髪が多いらしいけど。

 大きな背中の父さんは、似合わないスーツを着て苦笑いを浮かべてどっしりと歩いてくる。

 189㎝の身長に威圧感を持つ人もいるけど、本当はすっごく優しいんだから。

 フォーマルな恰好したのには訳がある。だって、フランス料理店なんだもの。

 あたしはお気に入りの淡い緑のワンピースと、上品なスパンコールで飾られたハンドバッグを持って父さんが歩いてくるのを待った。

「遅いよ~」

 背中までの緩やかなカールを描く髪が父の歩みを急かすように風に揺れる。