確かに、あたしは食べ物が無いと死んじゃうもんね……車があるから死ぬような距離じゃないけど。

 目の前のステーキを見下ろして、これはとても贅沢な夕食なのかもしれないとじっくり味わう。

 ベリルはそれを見ながら、氷の入っていないグラスを傾けて星空を仰ぐ。心地よい虫の音が流れていく時間をゆっくりと感じさせた。

「!」

 遠くから犬のような遠吠えが聞こえてその声にビクリと体を強ばらせた。

「ディンゴだ」

「! 野犬?」

 オーストラリアには野生の犬がいる。彼らを駆逐せず人の生活する場所とはフェンスで区切っているらしい。

 それでも時々、そのフェンスから出てきて家畜を襲う。その管理をしているのは国の人間だ。

 フェンスの横をひたすら車で走ってチェックしていく。

「フェンスからは遠い、どこかから逃げ出したディンゴだろう」

「! 大丈夫なんですか?」

「ん、心配ないよ」

 安心させるように微笑んだ。炎で2人の姿はオレンジに照らされる。

 その中にあってもなお、彼のエメラルドの瞳は輝きを失う事なくソフィアを魅了した。