午後の授業はフケた。
長谷川との話で何かもやもやした感情が湧き上がって何もする気がなくなってしまったからだ。
玉木に何度か電話をしてみたが、出なかったので諦めた。
粗方、サボって昼寝だろう。

いつの間にか鐘は鳴り止んだ。あの鐘はなんだったんだろうか。
オカルトには興味はないが、気にならないわけがない。何かを知らせているような鐘の音。

そして長谷川と話をして思い出したあの夢だ。
どうも何か肝心な事を忘れている気がする。
俺の中の何かがお誂え向きに事が運びすぎている、と訴えている。


これは、なんだ。


わからない。わからない。

何か欠けたような気持ちが沸き上がるが、どうもそれが何なのか突き止めることができない。

ふと窓の外を見れば猫が見えた。日の光を浴びながらも暗黒の毛色を従えて歩いている。

脳裏に映像が浮かんだ。
ぁあ、今朝見た夢だ。
黒のシャツが赤色を灰色のコンクリートに塗りつける一番綺麗な場面だ。
そのモノには見覚えがあった。玉木だ。

そんな考えを巡らせていると、携帯が震えた。ズボンのポケットから苦しそうなバイブの音が聞こえる。取り出して赤色の二つ折り携帯を開けば、東からのメールだった。
たった一文。簡潔なメールの打ち方は昔からだ。

[午後8時にレストランprecious stoneに。]


文章を見た瞬間、俺は足元から脳天に何かが駆け上がるのを感じた。