そうだ、今日は東と飯の約束してるんだった。


「午後8時にレストランprecious stoneに。」


小さく呟いて、そうして俺は…


右手の先に光る赤色を見た。



テラテラと妖艶に。
その赤色は俺の右手にべったりと張り付いて。
吐き気がした。生温くてベタベタしてる。これはなんだろう。


ふと、顔を上げる。
目の前に塊が蹲り、此方に手を伸ばしている。


「いた…い…」
「ひっ!」


地を這って、その塊は俺に近づいてきた。
ズリズリ
ズリズリ
黒いシャツをテラテラと光らせ、灰色のコンクリートに赤色の線を描く。それはそれは綺麗だった。その線は色んな色を見せ、色んな音を聞かせた。
自然と口角が上がる、目尻が下がる。

俺はこの状態を楽しんでいた。
美だった。それも究極の。

俺は一歩足を下げる。
塊からは遠ざかり、改めて全体を見ることが出来た。
やっぱり綺麗だ。
少し嫌な匂いがするけれど、そんなのは気にならない。
だってこんなにも綺麗だから。

その赤色の線は何を言っている?

苦しい?

痛い?

嬉しい?

その赤色の線は何色に光る?


黒?

黄色?

本当の真っ白?


やがて塊は力尽きた。

パタリと手が落ちて動かなくなる。


俺は咄嗟にテーブルの上のデジカメで、その様子を撮影した。
何枚も何枚も。
やがてメモリーカードの残量がなくなって、やっと俺はカメラを下ろした。


はて。

俺はなぜ此所にデジカメがあると知っていたんだろう?


ぁあ。ここは俺のアトリエだ。
そうだ。俺は美大生。
美大生で…



ぁあ、目の前の塊は俺の美大の相方だ。


何でこんなところに?

しかも赤色で。



俺は倒れている相方に声をかけた。


「玉木?」


返事はない。
それもそうか。
俺がコイツを止めたんだから。
アトリエにあった――――――







「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



俺はいきなり叫んで、意識を失った。






という夢を見た。



「…なんつー夢。」



俺は後頭部を書きながら起き上がった。
昨日創造意欲を掻き立てる綺麗な赤色の絵の具が手に入り、徹夜で描き始めた[赤色の真実]がその綺麗な赤色の輪郭だけで此方を見ている。