【企】携帯水没物語


陽人さんはわたしに缶コーヒーを手渡した。

こうやって、ベンチに並んで、二人で話をするのは初めてかもしれない。


「俺、
東佳さんの本当の父親になれなかった
ずっと逃げてた
ごめんな  東佳さん」


わたしは何も言わずに缶コーヒーを握りしめていた。


「近づいて、逃げて、近づいて……東佳さんをいっぱい傷つけた」


そんなことない…とは言えない。


「君のお母さんに……
東佳さんのお父さんになってほしいって言われたとき、すごく悩んだ。
絶対に無理だと思った」
「だけど、あの日、東佳さんはもう覚えてないかもしれないけど、初めて俺にあった東佳さんが全力で逃げ出したあの日、夢中で走って、東佳さんを抱きしめたら、東佳さんは俺の背中を握りしめて泣いてた」



俺は嬉しかったんだ

この子をずっと守ってあげたくて、

だけど、嫌われるのが、
傷つけるのが怖くて、

何もできなかった


……―この子の隣を歩いていきたいのに