そう、
この季節は長くは続かない。
先週一気に色づいた葉は、昨晩吹いた北風のせいで、あっけなく大部分が落ちてしまった。
わずかに残る葉が、所在なさげに枝にしがみついている。
早くも茜色に染まりだした空が、木々の間から透けて見える。
代わりに地面が、黄色のふかふかの絨毯を敷き詰めたようになるけれど、それもまた一瞬のこと。
天気予報では、低気圧の影響で今晩も風が強いと言っていた。
明日の朝には、寒々とした固い石畳が顔を出しているだろう。
冬が、もうそこまで来ていた。
だから、せめてもう少しだけ。
この幸せな黄色の余韻を、味わっていたくて。
詩織は、膝を抱えるようにしゃがみこんだまま、黄色の絨毯に目を凝らす。
首に巻いた赤いマフラーの端が、地面についていてもお構いなしだ。
ここに降り積もった無数の落ち葉の中で、一番きれいな葉を一つ。
選んで持って帰りたくって。
「・・・お腹でも痛いのか?拾い食いした?」
心配そうな調子の兄の声が、頭上から降ってくる。
「ちがいますぅ~!!」
私は犬か!
お兄ちゃんのばーか!
・・・この季節は、長く続かないんだから。
これが多分、お兄ちゃんと歩く最後の黄色のジュウタンだから。
その証を一つ、どうしても持っていたかった。
詩織と二つ違いの兄は、来年の春、高校を卒業する。
小学校から高校まで十年間、二人で通ったこの道を。
二人でくぐった黄色のトンネルを。
二人が踏みしめた、黄色の絨毯を。
二人で通る季節は、もう巡っては来ない。



