まだかな、まだかな・・・。
朝の空気から、夏の余熱が冷めていくのを感じる頃になると、詩織はそわそわしてくる。
それなのに、イチョウの葉はなかなかしぶとくて。
あんなに濃かった緑色は、少しずつ薄れていくけれど。
なかなかきれいな黄色には、ならないのだ。
そしてそれは大抵、晴れ渡った朝に突然、やってくる。
「いってきまーす」
外へ一歩踏み出した瞬間、体を包むひやっとした冷気とともに。
ふわふわのわたあめみたいな、白い息とともに。
「わあ」
詩織は、ようやく色づきを始めた木々を見上げる。
空の澄み切った青と、イチョウの鮮やかな黄色は、キンと冷えた空気によく映える。
「詩織、遅刻するぞ」
立ち止まって見上げる詩織を、兄はきまって急かす。
「わかってますぅ」
詩織はきまって、口を尖らせる。
もう、せっかく一番好きな季節が巡ってきたのに。
ちょっとは感傷に浸らせてよね。
この季節は、
長くは続かないのだから。



