「何やってんの?」
聞きなれた声に顔を上げると、そこに兄がいた。
「何か落としたのか?」
「ちがいますぅ」
詩織は口を尖らせて答えると、視線をまた、足元の黄色の海に落とした。
両側に大きなイチョウが等間隔に植えられた、遊歩道。
秋には葉が紅葉し、見上げる空一面が黄色一色に染まる。
詩織たちの家と学校の間にあるこの道を通って、兄妹は毎日学校に通った。
イチョウの木に見守られながら。
春の若い緑も、夏の涼やかな木陰も、冬のイルミネーションも、それぞれ綺麗で好きだったけれど。
詩織は、秋の黄色のトンネルが一番、好きだった。



