それは叶わなかった。

槙野くんの手によって、阻まれたから。


その上、先輩の温かい唇しか知らないあたしの唇に――…。


「~っっ!!」


槙野くんの、冷たい唇が触れたから。



「やあだぁ!」


叩くように彼の胸を押しのけながら、叫んだ。

知らないうちに、頬には涙が伝っている。


好きな人以外にされるキスが…こんなに嫌なものだったなんて。

気持ち悪いとさえ感じてしまう。


「ごめんごめん…じゃあ退散するよ」


両手を胸の前に上げ、お手上げのポーズで可笑しそうに言った彼に、怒りを感じた。

袖の先で唇を拭いながら、顔を上げると。


…もうそこに、彼の姿はなかった。



「…っ」


落としてしまったお弁当を拾い上げ、ふと頭を上げた。



「…!!?」


そこには、一番会いたくて、でも一番いてほしくなかった人…。


「先、輩……」


…先輩が、立っていた。