でも と僕はその時なぜか 思い巡らせていた なぜ 彼は空っぽだったの? なぜ 母さんと結婚したの? なぜ 死の間際まで気がつかなかったの? 兄を愛してたことを… なぜ なぜあの人は こんな人生を選んだの? すべてのはじまりのなぞをのこして 彼は旅立って行った 兄がこちらを振り向かずに言った 「ひとりに…させて欲しい…今夜だ け…」 今夜だけ 僕は返事の替わりに兄の手を握り ひとり病室を後にした 降るような星の下を バス停に向かって歩いた 処置をし忘れた手首の傷が 切なく疼いた