その時

突然兄の携帯が鳴り響いた

僕たちはその音がまるで

何かのアラームのように聞こえ

二人で何かを察したように

同時に顔を見合わせた

兄はあわてて脱ぎ捨てたコートの

ポケットに手を突っ込み

携帯を取り出して開いた



「はい…」



兄の顔色がサッと変わるのが

僕の目からもよくわかった


病院だ


僕は兄のことが心配で

急いで兄の横に張り付いた

「ええ…はい…そうですか」

兄の声は緊迫していた

「はい…わかりました」



兄は携帯を畳むと

急いで服を着込みながら僕に言った

「親父が吐血した…三回目だ」

「三回目って…」

「今から病院に行く」

兄は再びコートのポケットに

携帯をしまった

コートには兄の手の平ににじむ血が

ポケットの当たりに染み着いていた

「わかった…兄貴…手」

僕はジーパンのポケットから

ハンカチを出した

「手…出して」

「あ…ああ」

僕は兄の手をハンカチで縛った

「ありがとう…お前の手首」

「このまま行く…病院に行くんだ

手当てしてもらおう…兄貴も」

「理由考えないと」

「そうだ…説明」




冬の凍った夕焼けに押されて

兄と僕は病院に向かい

その部屋をあとにした