失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




僕は慟哭の中でで教会のイエスを

思い出していた

イバラの冠

裏切りと過酷な運命

そして磔の十字架

すべての罪を僕らの替わりに

背負ったと神父は言った

だけど僕にはあの十字架の

血を流したイエスの姿が

どうしても兄そのものに見えて

ならなかった

僕は一度として

犠牲なんか感じたことはない

僕は愛された

僕は

ただ愛された

だけど兄こそが犠牲と血の中にいた




兄を僕に返してくれたのは

悪魔じゃない

僕は天に祈ったんだ

血を吐くように歌ったんだ

もしこの世に神がいるのなら

僕の兄を僕に返してくれと

その祈りを叶えてくれたのは

神

そう

それは神だ

あの光…あの…光

僕に見せてくれた

天の光

兄を照らしていた

あの

光



僕は顔を挙げた

兄の瞳を見つめる

僕は兄に問いかけた



「宇宙に背くつもり?」



その僕の声は

その時僕の頭上から響き

語られたかのようだった


兄は目を閉じた

「宇宙は完全だ…だから俺は

お前を解き放つんだ」


僕は兄に言った

「兄貴…決めるのは宇宙だ

僕でも…兄貴でも…ない

もし…宇宙の完全性ではなく

それが罪と罰による答えならば」

僕の声はもう

僕のものではなかった

「それが悪魔の業だ」