兄の指が僕に触れる

そこから電気が走るように感じる

兄の背中に回した腕に力が入る

僕は兄の耳元で請う

「兄貴…もう許して」

兄は黙って僕に口づける

それだけでまた頭の中が

スパークするような感覚が僕を襲う

僕は女だったら良かったのに

いつも兄に抱かれて切なく思う

種違いの兄弟で

しかも同性で…



二重の枷

二重の禁

二重の苦しみ



しかも兄の後ろにいつも

兄の父親が見え隠れしている

自分でも気づかないうちに

嫉妬…?

怒りだけじゃない

兄の心が全部欲しくなってる

嫉妬だ…きっと

三重の苦痛



苦痛だけが膨らんでいる

兄も僕も普通の結婚は出来ない

この先きっと普通の人生はない

母も父も悲しませる…きっと

四重五重…なにもかも普通じゃない

高校生になった僕にも

だんだんと“将来”の文字が

うるさくちらつき始めている

頭の良い兄は大学院に行くことが

すでに決まっている

しかしあんな傷を抱えて

これからどう暮らしていくんだろう

心も閉じたまま

僕がいなくなったら兄は…



いつまで僕達は

一緒に暮らせるのだろうか?

…未来は僕らに答えない

そういう緊張と苦悩で押し潰されそ

うになるたび僕はパニックの発作を

起こす…過呼吸の発作と脳貧血

学校で紹介してもらった心療内科で

薬をもらっている

発作が起きるたび心配になる

兄はそれが自分のせいだと

自分を責めているんじゃないかと