「お母さんに…似てるな」

彼は少し微笑んだ

そして少し虚脱したように

静かに目を閉じた

「あいつは来ないだろうな」

彼はそのまま続けた

「君がメッセンジャーかな?…あい

つはどうしてるんだ…去年の秋から

ぷっつり来なくなって」

そう言うと彼はこちらをチラと見た

兄が父親には連絡をしていない

それがわかった

「何でって…」

それが僕がこの人の前で

初めて発した言葉だった

「俺が入院した日から来ない」

入院?

この人は何を言ってるんだろうか?

自分がしたことを

わかっているんだろうか?

「夜中にいきなりだったからしばら

く連絡もできなかったから昏睡して

たらしいし…気が付いたらICUだ

しな…」

…え?

と僕は変に思った

なんだろう

兄の話とズレてる

「もう一度吐血したら助からない…

らしいからな…これで二度目だ…胃

の中を固めて止血してるらしいがあ

まり動けない…動く気もないが」

そう言って彼はぼーっと

天井を眺めていた

「病院なんかに来たくなかったんだ

が…知り合いが救急車呼んじまった

からな…あのまま死んだ方が良かっ

たと思う」

彼はまた目を閉じた



僕は食い違う話を聞きながら

何かとても不安な気持ちを覚えた

なぜ兄は父親の入院のことを

僕に言わないのか

なぜこの人はこんなに平然と

僕に話をしているのか

理解出来ない

もう訊くしかない

訊いて確かめるしかない

あの日起こったことが

この人のせいなんだということを



僕はためらいながら

彼に質問を投げ掛けた