「ああ…こちら新館の病棟ですね」

事務員は事務的に僕にそう言った

すーっと

頭から血の気が引くのがわかった



いた



「新館の302号室ですので…ここ

まっすぐ行ったら黄色のラインに沿

って左に行って下さい」

遠くで聞こえている事務員の話を

真っ白になった頭の中で

なんとか理解しようと僕は努力した

「き…黄色…ですか?」

「黄色のラインは新館のエレベータ

ーに着きますので」

「すみません…何号室…?」

「302です…三階です」

「…ありがとうございました」

「ええと…この面会用のクリップを

胸に着けて下さい…帰りにこちらで

忘れずに外してって下さいね」

緑色のプラスチックに

番号の書いてあるタグを渡された

ジャンパーを脱ぎセーターの胸に

震える指でそれを着け

僕は黄色のラインをたどっていった




302…302

頭の中で数字がぐるぐる回っている

病室は本当にあった

あいつが本当に

…此処に

僕は軽いめまいを覚えた

少し病院の床と壁が歪んで見え

いつもの過呼吸始まりかけていた

僕は過呼吸の回避方法

つまりゆっくり吐いてゆっくり吸う

を繰り返しながら

廊下の手摺に掴まって黄色を辿った

黄色のラインは病院のいくつもの

廊下の曲がり角で折れ曲がりながら

僕を確実に新館へと運んでいった




そして黄色のラインは

大きなエレベーターの前で途切れた

↑のボタンを押すと

既にエレベーターは

一階で待機していた

乗らざるを得ない

自動的に僕の足はエレベーターに

吸い込まれていった

3のボタンを押す

僕だけを乗せて広いエレベーターは

わだかまりなく3階へと

僕を運んでいった



エレベーターが止まった

ドアが開き

3階のフロアが僕の目の前に

広がっていた