面会の受付には男の事務員が

帳面を繰りながらボールペンで

何かを紙に書き込んでいた

僕は帽子を取り事務員に声を掛けた

「あの…すみません」

「ご面会ですか?」

事務員はすぐにこちらへやってきた

「はい…あの…病室がわからない

場合はこちらで教えてもらえるんで

しょうか?」

「入院されてるかたの名前を頂けれ

ばわかりますよ」

僕は少し詰まりながら

あいつの名前を告げた

「…ええと…」

事務員が名前を探す間

息の詰まるような緊張と動悸に

寒いはずの受付のまえで

汗がにじんできた

もし

もしここに

あいつの名前がなかったら

僕はどうすればいいんだろう?

この先もあの悪夢のような迷路に

また逆戻りなのか?

あんなになってしまった兄から

あいつの状況を聞かなければ

ならないのだ…でないと僕は

発狂しそうなんだ

本当にもう

頭がおかしくなりそうなんだ

憎しみと罪と淋しさと不安と

悲しみと怒りと嫉妬と心配と

苦しみと苦しみと苦しみと苦しみと

兄の苦しみと



僕は祈るような気持ちで待っていた

ほんの一分にも満たない間だった

に違いない

だがこの一分は僕にとって

果てしない長さに感じられた

理由のない狂気に近い確信

それが僕を此処に連れてきた全て

冷静に考えれば何の根拠もない

ただの賭け

後先の考えも何もない

追い込まれた僕の衝動の連鎖

僕はこの受付に立って初めて

賭けに負けることもあるという

当たり前の思考が頭をよぎった

そのとき事務員が

入院者名簿から顔をあげた