兄はその夜のことを

全く覚えていなかった

なぜ僕のベッドにいるのか

なぜ身体中に傷跡があるのか

なぜ大量の髪の毛が散乱してるのか



一切の発作中の記憶を消去していた



僕は寝不足と兄の世話で

重くてだるい身体を起こせないまま

かすれた声で兄に聞いた

「覚えてないんだ」

「…なにがあったの?」

兄は自分の腕の噛み跡を

呆然とした様子で見つめていた

「兄貴…聞きたい?」

それを聞くと兄は一瞬ビクッと

身体を痙攣させた

僕は反射的に

兄の身体を押さえていた

「…おれ…なにしたんだ」

兄は僕の行動にハッとして

僕の腕を反対に掴んで僕の顔を見た

「発作だよ…僕と同じ…」

「パニックか?」

「ううん…もっと酷くて…」

「じゃ…これ…自傷…」

僕はなにも言わずうなずいた

「待ってよ…こんな…記憶にないわ

け…ないよ…」

兄は自分のしたことが信じられない

というように僕に否定を求めた

「兄貴…爪の中見て」

兄は恐る恐る自分の指を見下ろした

「これ…なに?」

兄は自分の皮膚の詰まった

血まみれの爪を凝視していた

「俺がやったのか…?」

僕はうなずくしかなかった