そして僕たちは

最終予選を

通過した





審査員のひとりが言ってくれた言葉

が心に残った

「荒削りだしね…決してスゴく上手

いわけじゃないんだよね…だけれど

君たちの演奏にはなにか…魂の叫び

みたいなのが伝わってくる…

なにかなぁ…高校生なのになあ…

生きてく悲しみ…みたいな…?」





評価はいろいろだった

他の高校でもすごく上手いバンドが

何校かあって

その1つが僕たちと票を分けた

この地区からは2つのバンドが

最終戦に出場することになった

他の地区も次々と予選が行われ

最終日程の予選も終わり

全32バンドがついに決定した

その32バンドが2日間にわたり

グランプリを目指してしのぎを削る

僕たちがそこに選ばれているのが

不思議だった





帰り道

ヤツが呟く

「実感…湧かねぇ」

「あたしは驚いてる…マジかって」

先輩は放心したような顔をしていた

「…俺はちょっと鳥肌立った」

付き添いのマニア顧問が真面目な顔

で答えた

「倍音が聴こえた」

歩いていたみんなが一瞬顔を

見合わせた

鳥肌が立った

「先生も…聴いたの?」

僕は顧問の前に走りこみ

思わずその腕をつかんでいた

「聴こえたか!やっぱり…」

顧問も興奮していた

「それは『倍音』というものだ」

マニア顧問は僕たちに解説を始めた

僕たちはいつの間にか

顧問を囲んでいた

「昔はそれを天使の声"エンジェル

・ボイス"と言ったんだ」

「ヤッパリ!」

後輩の目が輝いている

「キリスト教会の合唱とかでそれは

良く現れたからだ」

「本当にあったんだ!」

先輩が両手を頬に当て

まるでムンクの叫びみたいな顔で

驚愕しながら顧問を見ていた

顧問は尚も続けた

「で…科学の発達によりそれは物理

現象であると分かったのだよ!」



…え…?

物・理・現・象?

「なんじゃそりゃああああ?!」

ヤツが叫んだ