舞台になる演壇を僕らは案内された

いつもならそこで聖書のお話などで

神父さんが礼拝で立つ場所だ

部活のメンバーと電源の場所や

舞台の広さなどを手分けして調べ

顧問が当日のボランティアと

打ち合わせをしに隣の部屋に入り

意図せず僕の回りから人が離れた

僕は何気なく辺りを見渡した

壁には大きな十字架が掛けられ

十字架にはイエスが血を流して

磔(はりつけ)になっていた



僕は初めてその像をまじまじと見た

頭にはイバラの冠…

それは長くて鋭いアイスピックが

一面に覆っているような残酷な冠で

よく見るとその針が突き刺さった

額から幾筋も血が流れていた




その時唐突に

僕は兄の姿を思い出した

運命というイバラの冠を被せられ

言われなき罪を贖うための

重い十字架に磔にされて

血を流して

自分を売った父親を許して…




僕は今までイエス・キリストなど

何の興味も関心もなかったけれど

兄の姿がそこに投影された瞬間

僕はこの人の十字架の上の姿に

溢れてくる涙を抑えることが

できなかった



独り呆然と立ち尽くし

涙を流している僕に

不良神父がいつの間にか

横に立っていた

「重荷を下ろしてもいいんだ」

神父は不意にそう僕に言った

「君の苦しみは神だけは見てる」

僕はイエスの顔を見続けた

神父は僕と一緒に

磔のイエスを眺めながら言った

「なぜあの人が磔になったかってね

すべての人間の罪をすべて背負って

十字架に掛かったんだ」

「すべての人の罪を?」

「そうさ…だから全人類は誰もかれ

もまったくもって赦されてるんだ」



罪を…

赦されて



なぜ彼が僕に罪と贖いの話をしたか

僕にはわからない

でも僕にはその話が

あまりにも切なく胸に迫ってきた

僕は崩れ落ちるように

演壇の上に座り込んだ

涙は流れ続けた

ああ僕も

僕も赦されるのだろうか?

この僕も