「お帰…り…」

僕と一緒に帰って来た兄の顔を見て

母はそう言い…絶句した

兄の痩せこけた顔は

とても衝撃的だったらしい

「…死ぬかも」

兄は玄関で母に向かって

とても真面目な顔で言った

「この…飽食の現代社会で…飢えて

死にかけるとは…メシ…」

母は呆れた顔になった

「もうっ!何があったかと思った

わよ!」

僕の退院以来久しぶりの兄の帰宅に

母はとても嬉しそうだった







僕は帰還した

もう二度とまっすぐには見れない

と思っていた母を

見ている自分がいる

二日前には罪の重さに吐いて倒れ

もう生きていけないとさえ

思っていたのに…





父はレースの打ち上げで

レースチームのメンバーと

飲みに行っていた

僕たちは母と三人で食卓を囲んだ

早めの夕食だった

「研究所そんなに忙しいの?」

母は心配そうに聞いた

「実験が始まるとね」

兄は答えた

「忙しいから…でもないか…」

「何が?」

「考え事してると…メシ食うのを

ふと忘れる」

「やだ…ちゃんと食べてよ」

兄はそんなに大食ではない

「…コンビニの弁当は飽きた」

母はまた"もう!"と言った

「少しは自炊したら?」

兄は笑った

「自炊…無理だ」

ついに母は言った

「身体でも壊したら研究も出来ない

のよ? 帰ってきたら?」

母は僕を見て言った

「ほんと良かったわ…お兄ちゃん

連れてきてくれて…放っておいたら

ミイラになっちゃう」

「ミイラ…はないよ」

兄はいつもよりよく話してくれてた

僕をカバーしてくれてるのが

ひしひしと伝わってきていた

本当だ

兄貴と一緒にいると

僕はここに居ることが出来る

不思議だった

兄は僕の「家」になっていた