「…兄貴」

僕は兄の左手を握った

「僕…聞いて欲しいことが…ある」

兄は伏せていた顔を上げた

「なに…?」

僕の心は一瞬のうちに

違う苦痛の中に戻った

「僕は…もう…戻れないよ」

兄は僕の暗い声に顔を曇らせた

「戻れない…って…?」

僕は握った兄の手を更に強く掴んだ

「…僕は…彼を…また…男の人を

愛したんだ」

「……」

「僕は…ノーマル…じゃない」

僕は膝を抱えて固まっていた

「僕は…女の子を好きになったこと

…ないんだ」

兄は黙っていた

「僕…気づかなかった…僕は兄貴を

愛してることだけしかわかってなか

った…彼を愛しても…すぐには気づ

かなかった…でも…別れた悲しみが

少し薄れてきたら…僕は…彼が男だ

ったってことに気がついちゃったん

だ」

僕は何を言えばいいか

わからなくなった

兄はずっと黙っていた

「ほんとは…彼に酷い仕打ちを受け

たことなんか…もう僕は…いいんだ

それより僕は…もう…普通の世界の

普通の人生が…なくなったこ…とが

なくなったことが…」





壊れそうだよ

「…僕は…兄貴が僕に戻れって言っ

た意味が…初めてわかっ…た…」

自分の身体を自分で支えて

いられない

兄の指から僕の指がスルッと抜けて

背中が壁にぶつかった

僕はそのままもう動けなかった