部屋は明るかった

雨戸は開けられ窓は空き

布団はすべて干されていた

母がやってくれたのだろう

ありがたいが

横になりたかったのに布団がない

仕方ないのでまた昨日と同じく

椅子に座り机に突っ伏した

母がベランダから戻ってきた

開いているドアから僕を見て

下に降りかけたが

ふと戻ってきた

「ああ…さっきケータイ鳴ってた

わよ…」

「え…あ…そう」

ケータイのことなんかすっかり

頭の中から消えていた

どこにあったっけ?

母は下に降りていった

トントンと階段を降りる音が

響いてそのうち消えた

僕のケータイは脱ぎ捨てたジーパン

のポケットの中から発見された

確かに着信ありになってる

2つ折りのケータイを開き

履歴を見た





兄…貴





心臓の音だけが鳴り響く

頭の中が真っ白になった

そして瞬間的にゾッとした

あの時のメールが頭をよぎる

滅多にくれないメールを

あの時兄は動かない身体で送信した

いま…着信があった

僕は未読メールが入っているのに

その時気づいた





やはり兄…だった

しかも昨日の夜中に

たったひと言

『来て』…と





メールの返信も電話も

僕から無かったから

しょうがなく電話したんだ

僕はその事実に凍りついた

いったい何が

起きてしまったのか

だが僕の指は怖さに反して

ひとりでに兄の着信のリダイアルを

掛けていた