「…お前…意識戻ったのか」

兄が僕の気配で目をさましていた

「泣いてるのか?」

「……」

僕は何も言えなかった

今口を開いたら

声を上げて泣いてしまいそうで

「ベッド替わる?…寝られるか?」

こんな時に兄は僕を心配していた

僕は泣き出しそうになるのを必死で

こらえながら兄に尋ねた

「兄貴…血が…短パンに」

「ああ…ひどくやられて…痛い」

「血が止まってないの?」

「大丈夫…もう止まってる…明日見

つからないように洗濯しなきゃ」

僕はほっとした

「良かった…」

「大丈夫だから…お前は寝ろ」

「大丈夫じゃないよ」

「心配するな」

「うなされてた…聞いてて辛くなる

ようなひどいうわ言言って」

「俺の夢なんていつも悪夢だ」

兄はまた少し笑った

「笑わないでよ」

「絶望した時はつい笑ってしまう」

兄は微笑みながら言った

「生きていくことが俺には悪夢…」

「そんな…」

「救いはお前だけ」

「僕だってそうだよ」

「泣くな…俺の心はお前のものだ…

それは変わらないから」

僕は堪らず言った

「一緒に寝て…側に居させて」

兄は少し黙った

そして囁くような小さな声で言った

「だめだ」

「なぜ?」

止まりかけた涙がまた溢れてきた

「俺が壊れる…お前に触れたら」

「なぜ?」

「心を殺したいから…」

兄は静かに言った

「欲望の道具になったら…心が死な

ないと…俺が俺自身の命を殺したく

なる…お前に触れたら俺の心が開く

開いたら…俺の精神はきっとこれか

ら始まる拷問には耐えられない…

誰かを殺すかも…自分か…誰か…全

部終わったら…また俺はお前に生き

て帰りたい…全部終わったらまた…

戻ってくる…死なないで…狂わない

で…」

「あ…あに…」

もう声にならない

誰か僕に兄を返して

あにをかえして…

「気が狂ったほうがマシかもな」

そうだね…兄貴

僕も狂ってしまいたい



僕たちの蜜月は

唐突に幕を閉じた