僕は彼に頼んだ

「大丈夫なの?…僕のことはどうで

もいいから…早く安全な場所に

行こうよ…僕は一人で帰れる…好き

なところで降ろせばいいから」

彼はじっと黙ったまま

彼の腕を掴んだ僕の手を見ていた

「なに黙ってるの…?」

僕は彼が車を出さないことに焦った

「生きていてよ…逃げ延びてよ…」





それを全部言うまもなく

彼は僕を押し倒していた

「うわっ…な…なに?」

僕は驚いて彼に問い正した

「こんなことしてたら…あなたが」

「いいんだ!」

彼は大声を出した

「なんでだよ…」

「君を…最後に抱きたい…こんな

気持ちで誰かを抱いたことがない」

「駄目だよ!…あなた逃げなきゃ」

「いいんだ…いい…ここで君を抱か

なければ悔いが残る」

「そ…んな」

「いいか…このまま帰っても殺され

ない保証はない…逃げられても海外

だ…帰れるかはわからない…」

彼は真剣な顔で僕を見つめた

「映像も写真も全部返す…今日で

最後なのは変わらない…だから君を

抱きたい…昼の私と今の私は…どう

言ったらいいんだ…違うんだ」

彼は僕の髪を撫でた

「一度でいい…無理矢理犯すんじゃ

なくて…君に」

彼は今まで見たこともない目を

していた

彼の想いが伝わってきて

僕の胸にあまりにも切なく響いた

「良いと…言って欲しい」

彼は懇願しているかのようだった

「君が…もし…私を許すなら…」

僕はそれを聞いて

彼にしがみついた

彼が支配を

やめ…た

そのことに独りでに涙が溢れていた

「死なないでよ」

「君が祈ってくれれば…死なない」

僕は泣きながらうなずいた

僕たちは同時にくちづけていた