「…あいつは多分…長くない」

兄はつぶやいた

「俺は甘いな…憎しみしかないって

思ってたあいつがもうすぐ死ぬって

突きつけられて…そうしたら俺の心

の声は『二度と逢えなくなる』って

そう言った…実の父親と…二度と」

僕の胸はまた苦しくなり始めた

「明日死ぬかも知れない人を憎むこ

とって…難しいんだな」





産みの親を憎む苦しみが兄を蝕んで

いたことを僕は知ってる

そして父親を捨てたことの罪悪感

しかも捨てたことによって自分の父

を破滅させた…と自分を責めてる




「…どうしたいの?」

僕は兄に訊いた

「憎みきりたい…それができなきゃ

尽くすしかない…葛藤はもう苦し過

ぎる」

兄は再び両手で顔を覆った

…だから泣いてたんだ

僕を抱いた後…苦しくて堪らなくて

「俺は…あいつの借金を返そうと思

う…薬代もない…だから」

「…だから?」

「あいつの為に体を売る」

「な…なんで!」

「復讐…かな」

「兄貴!言ってることめちゃくちゃ

だよ!支離滅裂だ…兄貴取り乱して

訳わかんなくなってるよ!」

頭の良い兄の言うこととは思えない

ほどのめちゃくちゃな結論

「まだ薬が抜けないからおかしいん

だ…それに兄貴…こんな目にあって

あんまりだよ…今はショックが大き

過ぎるよ…もう寝たほうがいいよ」

「…」

「ね、僕が一緒に寝るから」

それを聞くと兄は身を絞るように

両手で自分の頭を抱え

首を激しく横に振った