母は僕の涙をぬぐった

「…わかったわ…母さんの罪を償う

のは…今しか…ないんだと思う」

「ありがと…う」

「違う…母さんがあなたに感謝しな

ければ…私は見ない振りをしてた

見たら心が砕け散ってしまうような

恐怖にいつも怯えていた…あの子の

の心がどうなっているか…聞けなか

った…私は気丈で優しいお兄ちゃん

に甘えてた…母親なのに…」





言ってしまいたい

一番の秘密を

母さん

僕は兄貴…愛してるんだ

母さん…

僕は言ってしまいそうになってた

でも此処でそれを口にすることは

僕にはできなかった

僕にはまだ

言えないことが多すぎた

倒れた理由すら

ここで言ってはならない

あまりにも生々しく

辛くて

母のキャパシティを越えるだろう

もちろんいまの僕にも…

母は十五年余りかかった

僕がこうやって誰かに話せる日は

いつか来るんだろうか








賭けは

終わった

勝ちも負けもない賭けだった

ただ母と僕の兄への愛が

兄の未来にすべて賭け直された

僕にそれがわかったとき

フッと気が抜けるのを感じた

突然また目の前が暗くなった

冷や汗が吹き出し

心臓が異常な早さで打っていた

頭が痺れる…めまい

「ああ…母さん…めまい…が…」

「どうしたの?」

「苦…しい…」

母が驚いてナースコールを押す

医師が駆けつける

血圧が異常に低下している

ああ…神様…死ぬなら

兄貴の幸せと引き換えにしてよね

お願い…