「兄貴は…母さんが離婚したあとも

あの人に…会わされてたんだ」

それを聞いて母は息を飲んだ

そして嗚咽を手で押さえた

「まさ…か…あの人…」

「…彼は…兄貴が高校生になるまで

兄貴連れだしてた…ひどいこと…

されてたみたいだ…でも…兄貴は

高校の時…彼との縁を切った…兄貴

はそれも罪悪感に思ってた…だから

彼がアルコール中毒で肝硬変になり

長くないって知って…それは自分が

彼を捨てたせいだと思って…それを

知らされてから兄貴は自分を親殺し

だと…責めてた…それでもあの人は

…死に直面してようやく兄貴の存在

の大きさと愛に最期に気づいた…

兄貴は少しだけ楽になったと思う…

でもあの人の呪いは…まだ生きて

いるんだ」

それがあの男

でも…それは…言えない

「僕は…ね…母さん…兄貴が幸せに

なって欲しいんだ…あんなに苦しん

でも…自分を殺して…人を恨まない

兄貴が…なんで報われないんだろう

って…思うんだ…でも…ぼくでは

だめなんだ…兄貴に今の話を聞かせ

てあげて欲しいんだ…兄貴は自分の

身体も心も…普通じゃないことに

絶望してる…真っ暗な孤独の闇の中

にいる…僕はもう慰める手がない…

もう全部手のうちさらけだしても…

兄貴…救えない」

僕は独りでに泣いていた

「母さんしかいないんだ…兄貴を

兄貴から許してあげられるの…もう

一秒たりとも兄貴に苦しんで欲しく

な…い…んだ…僕には何も出来ない

…苦しくて…辛くて…不甲斐なくて

心が潰れそうに…なる…兄貴は自分

を殺そうとしてるんだ」