「お兄ちゃんは…もう…あの人の虜
だった…あの子まだ五才だったのよ
…でもあの悪魔はあの子を生まれた
時から…」
それが兄から聞いた地獄…
でも兄は母に知られていたことを
覚えていなかったのだ
「…引き離されてあの子…だんだん
変になっていった…当たり前よね…
なぜ離婚するのかなんてあの子に
理解出来るはずがない…小さくて
自分が何をされていたかも理解でき
なかったでしょうし…それが私には
地獄の苦しみだった…あの子の発作
を私はどうすることもできなかった
うなされながらあの人を呼んで…
苦しんで…自分の頭を壁にぶつけた
り…夢遊病のようにあの人を探して
回った…そして…あの子があまりに
も苦しんで…私はとうとうあの子に
…父親と…同じ…こと…を」
僕は思わず耳を塞ぎたくなった
「ま…さか」
「ええ…そう…よ…私には…そうす
るしか…思いつかなかった…発狂し
そうだった…その行為も…なにも
かもが…でも…でも…あの子は…
その行為の間ずっと…私ではなく
…お父さん…って…お父さん…って
言い続けた…あの子…あの子その夜
は…眠ったのよ…ああああぁぁ…
もう…私は…耐えられなかった…
あの子が寝てから私は何度も吐いた
…吐きながら私には…もう…逃げ道
がない…と思った」
「母さん…母さん」
僕は母の背中をさすった
誰にも言えず…これを独りで…
「それからは話したわよね…私は…
その晩…あの子を乗せて…車で海に
飛び込んだ…あの時は…あなたに
離婚のショックって話したけど…
もちろんそれは事実よ…でも…それ
以上に…私はあの子と私の未来に
絶望した…」



