「進路のこと…って…人生のことと

今のところ同じ…僕にはね」

僕はいま感じている事実を

片方だけ説明することにした

「僕は何になりたいか…とか

なにがしたいか…とかあんまり

考えたことなかった」

確かにそれは自分にとって

とても心に負担のかかる問題だから

「…僕は…正直ギターのことしか

考えたこと…ないんだよ」

ギターと

兄と

「兄貴はずっと物理やって…研究室

入って…きっと大学に残って

物理を教えながら研究していく人に

なる…兄貴もそう言ってたし」

母は無言で聞いていた

「僕にはそんなはっきりした将来は

ない」

「…そうか」

母が呟くように言った

「高校生になったら…この三年間は

そのことを考える時間なのかなって

思うほど…なんだかのしかかるんだ

もう一年経っちゃった…あと少しで

もう二年生になる…」

僕は母の顔をちょっと見た

母は僕を見ていた

「切迫感がずっとあるんだ…」

「そうだったんだ…初めて話したね

そのこと…」

母は僕の顔を見て

少し安心したような表情になった

「私はね…お兄ちゃんとなにか

有ったかと思ってた…」

…正解だ

「いつ…だったっけ…お兄ちゃんが

引っ越したの…あれの前後から

なんか二人ともおかしくて…心配

だった…すごく…」

そう…やはり母はわかっていた

「そのあと…あの人が…死んだ」

僕は母の顔つきが

再び険しくなるのを感じた

「あの子も…あなたも…あれから

もっと…」

母の目が少し焦点を失っていた

「あの人と…会ったって聞いたわ」

親父が話したのか

兄が話したのか

「あの子に謝ってたって…」

そう言うと母は下を向いて

身体を震わせていた

「…もう…遅いのよ…!…いまさら

なにを謝ったら許されるの!」

母は両手で自分の顔を覆っていた