「君の兄さんは私の彼にあまりにも

似ていた…顔…声…仕草…身体

眼差し…」

生暖かいものが手首を伝った…血だ

「私は復讐の成果を確認したかった

彼の地獄の苦しみを破滅をこの目で

確かめ…復讐の甘い果実をこの舌で

味わうために…それなのに…それな

のに私は失った彼と再び繋がったと

すら感じた…嫉妬に狂い殺してやろ

うとさえ思ったはずの私が…欲した

彼より遥かに優しく私の胸に刺さる

痛みに…響き合って震えて…」





ああ…ぼくと…いっしょだ…

あのひとにあったあのときと…

ゆるして…しまった

あにを愛してるから

かれも…あのひとを愛した…から

彼の指先が僕の血で濡れているのが

ぼんやりと見えた

「たった一度の邂逅で私は君の兄さ

んが欲しくなった…狼狽えたよ…失

態だ…最悪だ」

彼は頭を横に振りながら苦笑した

「自分の心ほど当てにならないもの

はない…私はそういう不確かさが…

我慢ならない…でも現実はこうだ」

彼は僕の顔を見つめた

「君も愛せれば良いのに…」

彼は凍るような悲しい顔をした

「君の兄さんの心には君しかない…

君の幸せのために私と此処にいる

最悪だ…闇を受けとめて闇だけが

手の中に残る…愛は神聖なんだろう

私にはそれは…手に入らない」





彼は再び僕の手首の傷に

指先を這わせた

そしてその指先を傷口に入れた

叫んでも声が出なかった

激しい痛みにもピクリとも動かない

僕の身体…

「君の心も君の兄さんのもの…この

傷口…彼の手の平が庇っただろう」



この人は兄の手の平にも

指を入れたのだろうか