「なんでかな…私はいつもこうだ」

彼は虚無的に僕に語るともなく

話していた

「求めても与えられない…肉体は貪

るのに私の心を誰も振り向かない」

彼は僕の身体の脇に腰掛けた

「私はいつも誰かの替わりだ…いつ

も私は誰かの淋しさを埋め合わせる

だけ」

彼は僕の顔を不思議そうに眺めた

「みんな誰かを愛してる…許されな

い誰かを…君の兄さんも…その父親

も…」

僕の顔に彼の指が触れた

「君もね」

そう言うと彼は僕の髪を撫でた

「嫉妬で死にそうだ」

彼の無表情な顔に怒りの色が走った

「君たちの関係は世間的に許される

ものじゃない…それには同情する…

だけど…思いきれないなら破滅する

まで愛し合えば良いだろう?」

彼は僕の髪をつかんだ

「あの人には君の兄さん……私は

あの人の死に目にも逢えなかった

私は君の兄さんのために拒絶された

…愛されていなかった…一度も」

ぼんやりとした視界に彼の顔が

炎に揺らいでいた

「私でなくあの人を捨てた息子を

あの人は選んだ」

そう言うと彼は僕の手首の包帯を

取り始めた

「私の彼を…君の兄さんは奪った」

彼は僕の手首の傷を指でなぞった

「君の兄さんへの復讐は完璧だった

私は彼を生き地獄に放り込んだ…誤

算はたった一つ…君の兄さんに私が

直接手を下してしまった事だ」

長い指が僕のまだ癒えていない傷を

少しづつ押し開いていった

鋭い痛みが走ったが

呻き声すら出せなかった