最後の便箋に携帯の番号が

一行書いてあった



090-××××-****



僕はそれを見て

妙な既視感に捕らわれた

どこでそれを見たのか記憶にないが

確かにそれはどこかで

見掛けた番号だと思った



どこだろう…?

にわかには思い出せない

あり得ない既視感に寒気がした

僕は手紙を机に広げたまま

椅子に座りこんだ

この二日の心身の混乱に

追い打ちをかけるかのような

あの世から送られてきたような手紙

彼のいい知れぬ不安が

僕にも伝染してくる

兄はもう真相など追ってはいない

兄は自分の業としてその仕打ちを

受け入れてしまってるように思える

それ以上にあの地獄のような日々を

思い出すことが苦痛なのかと思う



だけど…



僕にはこの手紙が不安でならない

見えない火種がまだくすぶっている

言葉に出来ないこの感覚

しばらく止まっていたパニックが

再燃しそうな不安感




これを兄にどうやって伝えるんだ?

僕は途方に暮れた

『…君の判断を信じている』

彼の手紙の言葉が響く

でも全く自信がない

だって僕は暴発の連続だ

策なんてないんだ

手首が痛い

カミソリが切れなかったのか

兄が止めるのが早かったからか

予想外に傷は浅く

だが長く…痛い

もしかすると兄の傷の方が深い

いつもそうだ

僕のために僕より深く傷を負う

それが堪らなく苦しい





その時僕は唐突に

この寒気と不安の出所が何か悟った

悪意だ

あの時彼の話を病院で聞きながら

僕は偶然ではない意図された悪意を

ひしひしと感じていた

あの時の感覚と同じだ

僕は必死でこの電話番号の

記憶を辿ったが

その時は思い出せなかった