僕が産まれたときから

兄は僕を本当に可愛がってくれた

父親がいなくなった心の隙間を

幼い僕を可愛がることで

兄は埋めていたのだという

乳飲み子の僕が兄を見て笑うと

幼い兄はずっと僕をあやしていたと

母も何度も僕に話す

そんな兄を母は自慢に思っている

母は離婚のショックで兄が

新しい父親と自分との間に出来た

父親の違う弟をいじめやしないかと

不安だったから

でも兄は優しかった

彼は彼の父親から愛されたように

僕を愛した

心も身体も…

兄はそれ以外に

愛しかたを知らなかったから




「お前は天使みたいに可愛いな」

兄はそう言って小さな僕を眺めてた

僕はわんぱくで甘えん坊の

絵にかいたような次男坊で

そんなやんちゃな僕は

兄の前ではまるで飼い犬のように

なついていた

だから母は僕が産まれてから

兄が落ち着きを取り戻したのが

はっきりわかったと言った

母は僕が10歳になったある日

僕たち家族の秘密を

僕にわかるように話して聴かせた

僕は兄がたまに言う「あいつ」や

兄がなんでこんなになったのかの謎

がようやく少し解けた

もちろん母は兄の父親が同性愛者だ

なんてことは話さなかったし

自分が兄と自殺未遂を図ったことも

言わなかった

でも僕はそのことを兄から聞いた

兄は何が起きていたか

ほぼわかっていたんだ

幼いけれど頭の良い兄には

互いが何を感じ何をしたのか

ほとんどわかっていた