「入社した時、祖父母と暮らしていて、両親とは死別……って、私、言いましたよね?」

「ああ」

「それは、嘘ではないんです」



そう、確かに『嘘』ではない。



「今日銀行の前で会った人の事なんですけど……『風花の父』って言ってたから、純さんは疑問に思いましたよね?」

「まぁな」

「あの方は……私が子供の頃、ずっと『お父さん』だと思っていた人なんです」

「……えっ? 『思っていた人』って?」



純さんが不思議に思うのは、当たり前だ。

でも、事実。



「私の実の両親は、私が2才の時に別居したらしいんです……母は離婚したかったようですが、父の方が『離婚は絶対にしない』って拒絶して……母は私を連れて、父から逃げたそうなんです」

「逃げた?」

「父は母の事を溺愛していて、常に母の行動を監視して束縛して……母には自由が無かったそうです」



純さんは黙って聞いていた。