長月と言えど、今宵は月など見えそうもない。
しとしと降る雨が月だけでなく、空ごと曇らせている。
校舎内の時計はまだ午後六時を指したところだというのに、余程機嫌が悪いのか、ひどい曇天だ。
蛍光灯が妙に黄色く感じるのは、今日の背景が鉛色だからか。
色とりどりに着飾った校舎もそのせいで、どこか鮮やかでない。
張り付いていたカッターシャツの首元をはたはた扇ぐと、湿気た肌に温い風が通り抜けていった。
どこからか楽器の音が聞こえてくる。
いつかは疎らでただの音でしかなかったけれど、今ではすっかり聞き覚えのある旋律だ。
「わ! あの人……」
ふと耳に入ってきた声へ顔を向けると、前から歩いてきた女子生徒がチラチラ視線を送ってきていた。
薄笑いながら話し声が飛び飛びに聞こえてくる。
「ほら……執事の……、ねっ!」
誰が執事だ。
別に僕は執事じゃない。
わざと視線を外す。
擦れ違う瞬間、沈黙が走る。
雨音とリズムの合わない旋律が再び流れ込んでくるも、耳に残らず消えていった。
しとしと降る雨が月だけでなく、空ごと曇らせている。
校舎内の時計はまだ午後六時を指したところだというのに、余程機嫌が悪いのか、ひどい曇天だ。
蛍光灯が妙に黄色く感じるのは、今日の背景が鉛色だからか。
色とりどりに着飾った校舎もそのせいで、どこか鮮やかでない。
張り付いていたカッターシャツの首元をはたはた扇ぐと、湿気た肌に温い風が通り抜けていった。
どこからか楽器の音が聞こえてくる。
いつかは疎らでただの音でしかなかったけれど、今ではすっかり聞き覚えのある旋律だ。
「わ! あの人……」
ふと耳に入ってきた声へ顔を向けると、前から歩いてきた女子生徒がチラチラ視線を送ってきていた。
薄笑いながら話し声が飛び飛びに聞こえてくる。
「ほら……執事の……、ねっ!」
誰が執事だ。
別に僕は執事じゃない。
わざと視線を外す。
擦れ違う瞬間、沈黙が走る。
雨音とリズムの合わない旋律が再び流れ込んでくるも、耳に残らず消えていった。