この声が枯れるまで


笑が帰った後、僕は誰かに電話をしていた。


『もしもし?』


『歩か?』

電話の相手とは歩。
僕は聞いて欲しかった。誰かに、この思いを…


『優か!どうした~?』

『ちょっと聞いてほしい事あるんだ…今度会えないか?』


歩は今弁護士の勉強で、忙しいらしい。
だが歩は僕の為に会う時間を取ってくれた。


『木曜の夜とかなら多分いけると思うけど?』


『じゃあ木曜の夜な!まじありがと!』



『なぁ優?お前今笑ってるだろ?』


さすが…歩。
今僕は電話をしながら笑っていた。
歩に聞いて欲しかった。
笑との運命的な出会いを。

そして…今後の僕の事を。

歩なら…全て話せる。

笑から貰った名刺は、
ずっと手に持ったままだったから、少しだけシワシワになっていた。



『じゃあ木曜の夜!いつものとこで!』



『おっけ!じゃあな!』



木曜まで僕はひたすら考えた。

過去を辿れば簡単に百合が思い出せる。
でもそれは過去で、現実ではない。

現実は、笑が簡単に思い出せる。

今僕は現実に生きている。


過去と現実。


僕は二つの世界で揺れ動く。