「たける」
　

ふみが僕を呼ぶ声は、いつもの偽物の声ではなくて、とても甘い。


一緒に育っただけで、本当は兄妹なんかじゃないんだと知っているからかもしれない。


自分一人、成長するのをやめて僕を困らせてやろうという気持ちがうかがえた。


「たける、お帰りなさい」
　

だけど、そう言って嬉しそうに駆け寄ってくるふみの顔を見ていると、このままでも良いと思えた。
　

このままで良いと思っていたかった。
　

けれどそれは許されないのだ。


「たける。つけられてる」
　

突然、ふみは顔をゆがめた。


振り向くと、見た顔があった。


「京介……」
　

全然気づかなかった。


早く帰ってふみにご飯を作ってあげないと。


そんなことばかり考えていて、後ろに人がいるなんて思いもしなかった。